「人類の進化により二足歩行が腰痛を引き起こすという有名な説があります。しかし、熱を出して寝ていると腰が痛くなる現象について、二足歩行していないのに腰が痛くなる理由は何でしょうか?(ヒント:寝返りを頻繁にすることで身体の負担が軽減されます。)
動かないことにより関節が負担を逃がすことができず、筋肉が負担を引き受けるためです(筋骨格の機能異常)。人の身体は長時間にわたる負荷に弱いのです。
上記の説明は、生体力学と臨床の結論をもとにしていますが、他にも原因が存在する可能性があります。
関節の機能に関する詳細な説明をご覧ください。
今回は姿勢と腰痛について考えてみましょう。
姿勢は非常に複雑であり、筋肉や関節の固有受容器からのフィードバックを受けながら、視覚や前庭器官からの情報を統合し、大脳からの指令によって筋肉を動かしてバランスを保っています。筋肉への指令は中枢神経系によって行われ、筋紡や腱などから多くの信号が集まり、神経を興奮させたり抑制したりして姿勢を維持しています。
身体の大きな部位を見てみると、足底と頸部が姿勢に関連していると考えられています。足底は、たとえ米粒を踏んだだけでも不安定になり、違和感を感じるほどです。頸部には最も多くの固有受容器が存在し、バランスを必要とするスポーツをする際には頭の向きが重要となることも理解できます(前庭器官も考慮されるべきです)。このような部位の機能異常を改善することは、姿勢にとって非常に重要です。
姿勢の負担
姿勢(筋肉の力学的な状態)によって、関節や筋肉には大きな負荷がかかります。現代社会では同じ姿勢を維持したり、同じ動きを繰り返したりすることが求められるため、姿勢の維持や関節、およびその周りの組織にかかる持続的な負荷によって関節や筋肉の状態が悪化し(筋骨格の機能不全)、痛みを感じやすくなります。
腰の関節にかかる負担を考えてみましょう。
身体はてこの原理によってバランスを取っています。例えば、足元の10kgの荷物を背筋を伸ばして持つと、腰と骨盤の間の関節(腰仙部)には約140kgの負荷がかかります。同じ重さの荷物を少し足元から離れた状態で持つと、約250kgに増加します。また、お腹に力を入れると腹腔圧が増大し、負荷が30%から50%ほど軽減されます。
これにより、荷物を持ち上げる際に離れた場所で持つと負荷が大きくなり、身体に近い位置で腰を下ろして持ち上げることの重要性がわかります。負荷が2倍以上に増えることは驚くべきことです。また、腹筋がしっかりと働いていると腹腔圧を維持できるため、腹筋を強化することは腰痛予防に役立つことも理解できます。
姿勢による筋肉への負荷も考えましょう。
椅子に座った姿勢で背筋を伸ばすと、骨盤が不安定になり、脊柱起立筋から僧帽筋(肩こりの筋肉)や肩甲骨周りの筋肉が背骨を重力に抗うために働きます。つまり、姿勢が良くても骨盤から肩へ負荷が伝わり、肩こりに寄与してしまうのです。
立っている時に正しい姿勢を保つ際には、身体の後ろ側の筋肉(腓腹筋、ヒラメ筋、ハムストリング、脊柱起立筋などが働きます。一方、前側の筋肉はあまり使われません。特に腹筋は緩んだままです。
立位の時に腹筋が働いていないため、腹腔圧を高めることで腰への負荷を減らすことがわかります。
腰部伸筋への負荷についても考えてみましょう。
お辞儀をする動作で腰部伸筋の負荷を筋電図で観察すると、立位では少し活動していますが、最大の前屈姿勢では筋活動はほとんど見られません。お辞儀の角度が約45度の姿勢が最も筋活動が激しいことがわかります。
腰痛の検査で前屈すると痛みは感じない場合でも、前屈の動作途中で痛みを感じることがあります。これは、腰がおよそ45度の位置で最も負荷がかかっていることが大きな原因であることが分かります。
さらに、筋肉と痛みの関係についても考えてみましょう。
ある研究(1)によれば、筋肉に負荷をかけて疲労させると、筋肉内の痛みを感知する神経受容器が強く反応し、筋肉を持続的に収縮させたり、血流障害が起きた場合にも同様の反応が見られます。
通常、痛みについては「脳が痛みを感じるから」と脳との関連性が主に言及されますが、末梢の受容器(レセプター)の感度も筋肉の状態によって変化することが示唆されています。筋肉が疲労していると痛みをより感じやすくなるようです。
まとめ
靴紐を結ぶ姿勢や顔を洗う姿勢で腰痛やぎっくり腰が発症するのは、筋肉の状態が悪い状態にさらに大きな負荷がかかるからということが分かります。座った姿勢でも背筋を伸ばしていると肩回りへの負荷が生じますが、それでも最も負荷が低い姿勢ですので、正しい姿勢を保つように心掛けましょう。座る際には、バックジョイ(2)などのシートを使用すると骨盤の不安定さが解消され、肩回りへの負荷が軽減されることが理解できます。
まとめると、姿勢と腰痛の関係について考えると、以下のポイントが浮かび上がります。
- 姿勢は複雑な統合過程であり、筋肉と関節の固有受容器からのフィードバックと視覚・前庭器官からの情報を統合してバランスを保つ働きをしています。
- 姿勢の維持には筋肉への命令が関与し、中枢神経系には多くの信号が集まり、筋肉の興奮や抑制が行われています。
- 足底と頸部は姿勢に大きく関与しており、足底の不安定さや頸部の深層筋の固有受容器の状態が重要です。
- 姿勢の異常や持続的な負荷により、関節や筋肉に大きな負荷がかかり、筋骨格の機能異常が引き起こされ、痛みを感じやすくなります。
- 腰にかかる負荷はてこの原理によって変化し、正しい姿勢や腹腔圧の維持が腰痛予防につながります。
- 筋肉の状態や疲労度によって筋肉内の痛みの感知が変化し、疲労や血流障害時に痛みが増強することがあります。
姿勢の改善や適切な体勢の保持によって、腰痛の予防や症状の緩和が期待されます。
参考文献
- Mense S Stahnke M:Response in muscle afferent fibers of slow conduction velocity to contraction and ischmia in the cat. J Physiol 342:383-397,1983
- http://www.backjoy-jp.com/