すべり症と背骨のズレについて

すべり症の方が腰痛でいらっしゃって「骨のズレ(すべり)をよくして欲しい」とおっしゃいます。病院へ行って画像診断をしないとすべり症の状態は分からないのでみなさん病院ですべり症の診断を受けてそれが原因だと言われてます。それだとすべり症が腰痛の原因だと思っても仕方ありません。困ったものです。

すべり症は第5腰椎(背骨の一番下の骨)にみられ先天的な形成不全や発育期でのスポーツや姿勢などの負担によって成長の過程で背骨の連続性が絶たれて起こると言われてます。遺伝的な因子が大きいといわれておりアラスカに住んでいるエスキモーは約30%がすべり症だと報告されてます。

つまり、昨日今日の負担、例えば洗車をしたとか庭仕事をがんばったなどで背骨が前すべっていったわけではありません。

背骨の構造をみてみます。

 

この様な骨(左)が連続で積み重なって背骨(右)を形成してます。中央にある穴は脊髄が通ってます。背骨がズレて脊髄が損傷すると大変なので靭帯という強固なスジが関節を繋いでます。

靭帯をみてみましょう。

横から剪断してみてます。背骨前面には前縦靭帯、脊髄の前には後縦靭帯、後ろの方には黄色靭帯、棘間靭帯、棘上靭帯、関節包靭帯、前内側靭帯、横突間靭帯があり強く強靭なと表現されてます。

骨には筋肉がついてます。背骨には脊柱起立筋という重力に逆らってに背骨を真っ直ぐ立たす筋肉がついてます。背骨を支持して保護する働きや、てこを支える作用があったりもちろん、運動の為に使われます。

背骨の横に上下に走るロープ状の筋肉が左右にあります。棘筋、最長筋、腸肋筋から構成されてます。その下にもっとも深層にある筋肉があります。深い順番に回旋筋、多裂筋、半棘筋です。これらの筋は姿勢にとても重要な役割をしており背骨の動きにも関係してます。これらの筋肉が骨と骨との関節を跨いで”強く強靭な”靭帯の上にあります。

ですので、一般的なイメージとしてのズレなどは、この様な解剖学的な見地からは存在を認めることは出来ません。そして、ある日重い荷物を持って背骨が前にズレる事はないわけです。

しかし、骨の関節は動くのでズレる事はあるのではないかと思う方もいらっしゃいます。長い臨床生活では色々な質問が来ます。たとえば車のタイヤは回転して動きますけど、横に外れる様にズレません。関節にはそれぞれ固有の動きがあります。どのような動きを脊柱がするのかというと回旋、側屈、屈曲、伸展という動きをします。その範囲内で動くだけです。関節の可動域は人それぞれで年齢などで異なります。

固有の動きから外れて靭帯が損傷してしまう事を捻挫と言います。ズレやすべりなどの事ではありません。

再度言います。ある日突然「骨が前にズレ」てすべり症になることはありません。

これまでの事から「お腹を押して前に出た背骨を戻す施術を受けてました」というのが如何に意味の無い施術なのかが分かると思います。そこまで変な事をしないまでも「すべった骨を元に戻すため」骨盤や足を引っ張られた方は多いと思います。治療としての意味はありません。

カイロプラクティック治療効果は、普通の腰痛患者と脊椎すべり症のある慢性腰痛患者との間に著明な差はみられないとされてます。つまり、普通の筋骨格の機能不全で症状が出てるだけです。

子供の場合は、脊椎すべり症の好発年齢は5歳以後です。1955年から2年間に渡って行われた6~7歳児500人を対象とした画像診断による研究では、発病率は4.4%で16歳になるまで増加する傾向があります。この研究ではすべりの進行により症状が現れることは全くなかったとされてます。

X線撮影で脊椎すべり症が写った人の約半数が無症状で、脊椎分離症、脊椎すべり症は偶然見つかる事が多く患者の症状との関係性は薄いということです。ここら辺は、最近の日本における画像診断の見解と一致します。やっと日本が追いつきましたね。しかし、一般の方はほとんど知らないのが致命的ですが。

脊椎分離症もしくは脊椎すべり症の子供は、正常な青年期を楽しむことが許され、活動の制限をしたり、すべり症の進行や激痛を恐れる必要はないと結論してます。大人も同じですね。

ただ、痛みや痺れなどの症状は、筋骨格機能不全由来の可能性が高いので普通にカイロプラクティック治療してQOL(生活の質)をあげましょう。

参考文献

Frederickson BE, Baker D, McHolic WJ, Yuan HA,Libichy JP: The natural history of spondylolysis and spondylolisthesis. J Bone joint Surg 66-A No 5, 699-707,1984

Rowe GG, Kocke MB: The eliology of separate arch. J Bone joint Surg 35-A:102-110,1953

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